あなたの身近な著作権(2) なぜ六本木ヒルズ広場のドラえもん像を、ツイッターにアップしても大丈夫なのか?

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こんにちは、ヨネツキです。

先週9月3日は、ドラえもんの誕生日でしたね。

彼が生まれたのは2112年なので、今から98年後。このブログの読者の中には、ひょっとしたらそれまで生きてる人もいるかもしれません

ドラえもんといえば、8月には映画のキャンペーンをかねて、六本木ヒルズの広場で、たくさんのドラえもん像がずらっと置かれていましたね。

こんな感じで。



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あらかわいい。私も、まわりのみなさんも、スマホで写真を撮りまくってましたし、ツイッターやFacebookには大量のドラえもん像の写真がアップされてます。


はて、写真を撮ってアップしても大丈夫なのでしょうか?


みなさんは、「そりゃ当然OKだろ。オレの写真はオレのもの。ガハハ」とジャイアン風にお考えかもしれません。でも、ドラえもんの絵や像にも著作権は当然あります。ウェブへのアップも本来は著作権者だけに許されてるはずです。
本当にセーフなのか、著作権法はどうなっているのか、今日はそのあたりを確認しておきましょう。


1 美術の著作物の、複製と、公衆送信とは?


まずは、基本的なところから。

ドラえもんの像は、著作権法にいう「美術の著作物」なので、著作権があります。
そして、像を写真にとって保存することは、法律にいう「複製」ですね。

1)複製


え、「複製」ってコピーのことじゃないの? 写真もそうなの? と思われたかもしれません。

たしかに、「複製」の典型例は、コピー機で複写することです。さらにパソコンのキーボードで例えると、Ctrl+CとCtrl+Vですし、ドラえもんの道具で例えると、フエルミラーとかバイバインが近いですよね。

ただ、写真でも被写体の特徴をコピーできるので、「複製」に含まれるのです。
著作権法でも、そこはバッチリ明記しています。

(定義)
第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十五 複製
印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、(以下略)。


そして、「複製」は、著作者しかできません。

(複製権)
第二十一条
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。



誰がドラえもん像の著作権をもってるのかは知りませんが、仮に藤子プロだとしましょう。その場合、21条を超訳すると、「ドラえもん像の写真を撮って複製できるのは、藤子プロだけ」となります。


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2)公衆送信


さらに、撮った写真をネットにアップすることは、著作権法でいう「公衆送信(送信可能化)」にあたります。

(公衆送信権等)
第二十三条
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。


こちらも超訳すると、「ドラえもん像の写真をネットにアップできるのは、藤子プロだけ」となります。


あらら?
ということは、私やあなたがドラえもん像の写真を撮って、ネットにアップすると、違法なのでは??


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2 公開の美術の著作物とは?


前回の記事では、ラーメン屋のオッチャンを救うために他の条文を探しましたが、今回もさらに別の条文を見なければいけないようです。

著作権法の46条をご覧ください。

(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
(* 以下の部分は、今回の記事には関係ないので省略)



はて、何を言ってる条文でしょうか? 超訳すると、
「ドラえもん像のオリジナルが、45条2項にいう「屋外の場所」に「恒常的に」置かれている場合は、みんな写真に撮ってネットにアップすることができる」ということです。

アーティストの方は、屋外の一定の場所に、アート作品を恒常的に置くときは、みんなから写真に撮られたりすることはふつう想定してますよね? という理由で置かれた条文ですね。

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ここでさらに、「屋外の場所」というフレーズの意味をさぐるためには、45条2項も見なければいけないようです。

第四十五条
2 前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。


「街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所」とありますね。

六本木ヒルズの広場は誰でも自由に歩きまわれますし、もちろん屋根もありませんので、「一般公衆に開放されている屋外の場所」といえるでしょう。


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3 「恒常的に」とは?


さて、ここで気になるのは、「恒常的に」とはどれくらいの期間なのか?ということです。

実は、六本木ヒルズの広場にドラえもん像が置かれていたのは、7月19日から8月24日までの1か月間だけだったようですね。かわいいから年中置けばいいのに



「恒常的に」というコトバは、なんとなく、かなり長い期間のような気がしますね。
実際、いまの著作権法をつくった人の1人、加戸守行氏もこう書かれています。

「恒常的に設置する」といいますのは、常時継続して公衆の観覧に供するような状態におくことをいい、上野公園の西郷隆盛の銅像のように、容易に分離することができない状態で土地上の台座に固定する場合とか(中略)がこれであります。時季によって作品の掛け替えができるような場合は、これに該当いたしません。
加戸守行『著作権法逐条講義[六訂新版]』(著作権情報センター、2013)344p



あらま。
この考え方だと、今回のドラえもん像は、時季によって作品の掛け替え(置き換え)ができてしまうので、「恒常的に設置」したとは言えないような気がしてアカンですね。


いろいろ調べてみましたが、裁判官が書いた判決のなかには、「社会通念上、ある程度の長期にわたり継続して」いれば「恒常的」なのだと、わりと柔軟に(?)述べたものもある一方で・・・定評ある文献には、「撤去が予定されていても向こう10年間の設置なら恒常的といっていい」というものもあったりして、かなり長い期間が想定されている気がします。

何か月ならOK、とすっきり断言はできませんね。


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・・・さて、ここで私がモヤモヤするのは、「たまたま通りかかった人にとっては、『恒常的』かどうかなんて、パッと見てわからないだろう」ということです。


昔はそれでも問題にならなかったのかもしれません。

前回の記事でも書きましたが、いまの著作権法ができたのは1971年(昭和46年)。当時はスマホもデジカメも、インターネットもありません。一般家庭のカメラは一眼レフや、コンパクトカメラです。


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1961年発売、100万台のベストセラー「キヤノネット



あの「写ルンです」が出たのも、それよりずいぶん後ですね。というか、今の若い人に「写ルンです」って通じるのか・・・


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1986年発売の「写ルンです」初代モデル




そして、昔は公園で彫刻の写真を撮ったとしても、せいぜい近所の写真屋さんにネガを持っていくか、コアな人は自宅の暗室で現像するだけ。枚数も少ないでしょうし、ピンボケの写真もたくさんあったかと思います。

写真の焼き増し(このコトバも若い人には伝わらないでしょうか・・・)をするとしても、せいぜい家族や親しい友だちだけなので、いわゆる「私的な複製」でセーフか、それに近いものとして大目に見られる(?)範囲内でしょう。


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ところが今だと、誰でも簡単に、スマホできれいな写真を撮れるし、一瞬でネット上にアップできてしまう。これは私的複製とはいえないわけで・・・。


ということは、たまたま道端でかっこいいアート作品をみつけて、フォロワーの人に教えてあげるためにアップしようと思った人は、「はて? この作品は恒常的に設置されたものだろうか?」といちいち考えなければアカンのでしょうか


それとも、スマートフォンが広まった2014年の現在、屋外に作品を置くクリエイターの方は、「たとえ恒常的でない置き方であっても、写真に撮られてネットに広まることは当然想定しておくべき」などと言われてしまうのでしょうか?



・・・話を広げてしまいましたが、みなさんはいかがお考えですか?

落としどころはいろいろあるでしょうけど、たとえば、「『恒常的』とは一時的な場合以外のことですよね。たとえば、アート作品を他の場所に搬送するために、一時的に路上に置いたような場合以外は、『恒常的』というべきじゃないかしら」なんて考え方はありうるでしょうか。法律の条文フレーズから離れすぎでしょうか?


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4 暗黙の許諾?


ちなみに、肝心の六本木ヒルズの件ですが、「恒常的に」といえれば46条で救われてバンザイですね。

しかし、仮に「恒常的」といえず、46条では救われなかったとしても、別の解決策もあるでしょう。


それは、広場への像の置き方からすると、みなさんが写真を撮ることも、ネットにアップすることも、「暗に許されていた」という考え方です。著作権法63条にいうところの、著作権者の「許諾」があったという理屈ですね。


(著作物の利用の許諾)
第六十三条
1 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。



こういうと、「何だそのオチは! 今まで読まされた長文は何だったんだ、この時間ドロボーめ!」、「メッタメタのギッタギタにしてやる」とやはりジャイアン風に怒られてしまうかもしれません。


まあ、普通に考えても、著作権法46条なんて誰も知らない条文を意識して広場に置いたというよりも、「映画などのPRのために、みんなにドラえもん像の写真を撮ってSNSで拡散してもらおうと考えて、誰でも入れる広場にあえて置いた」というほうが自然ですよね。


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著作権の"使いみち"はいろいろありますが・・・ドラえもんのイラストや像の著作権を使って、入場料をとって直接マネタイズするのではなく、著作権自体はあくまで客寄せのために使って、別の方法で回収するやり方ですね。


・・・そういうと当たり前に聞こえますし、「お前の記事は長い! 最初から許諾の話だけ書け!」と言われるのももっともですが・・・ただ1つ言い訳をさせていただくと、「暗に許されていた」というのは、実は断言するのはなかなか難しいのです。



例をあげましょう。六本木ヒルズの脇にある、テレビ朝日本社の1階には、訪れた子ども向けに、「のび太のへや」というコーナーがあります。


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これもかわいい。このコーナーの目立つ場所には、「のび太くんみたいに寝転んで写真を撮ってみよう!」と書かれた札が置いてあって、
 

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これだと、(少なくとも)写真OKという「許諾」があると言えそうですね。


しかし、六本木ヒルズの広場には、こういう札はなかったような気がします(あったらゴメンナサイ。。。)

ただ、ドラえもん像のすぐ脇には、見張りの係員の方があちこちにいて、像に乗っかろうとする子どもを注意していました。他方で、スマホやデジカメで撮る人にはまったく何も注意せず。


そして、スマホの写真だけ許してSNSにはアップするなというのも、2014年の今では非現実的ですし、もしそれが嫌なら「アップ不可」の札をどーんと目立つように置いておけば済むような気もします。


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こんな見張り体制からすると、像を設置した人たちも、写真を撮ってネットにアップすることを「暗に許していた」と一応いえるのではないでしょうか?
というわけで、今度こそめでたしめでたし・・・(?)


5 クイズ:屋根の下にある「トラのもん」の場合は?


さて、この記事ももうすぐラスト。
長文をじっくり読んでくださった方に、1つ、頭の体操的なクイズを書いておきましょう。


2014年6月にオープンしたビル「虎ノ門ヒルズ」の1階には、「トラのもん」というドラえもん風のキャラクタ像が置かれています。森ビルと、藤子プロが共同して製されたそうです。



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これまたかわいい。
白黒のドラえもんはめずらしいし、虎っぽい縞模様もかわいいですね。

6月のビルオープン以来、ずっとこの場所に置かれているようですし、とくに撤去予定もないようなので、さっき挙げた46条にいう「恒常的に」置かれたものといえそうな気がします。


しかし、この像は「屋外に設置」された像だといえるでしょうか?

ちなみに、引きで撮るとこんな感じです。上には天井があり、周囲はガラス壁で覆われています。

 
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虎ノ門ヒルズは巨大なビルで、玄関から入ってそのまままっすぐ歩いたところにこの「トラのもん」が置かれています。もちろん入場無料。イメージとしては、百貨店の1階フロアに像がどーんと置かれている感じですね。


さて、いかがでしょう? これは「屋外」でしょうか?


こちらも六本木ヒルズのケースと同じように、「暗に許諾があった」ということは一応できると思いますが、・・・その前に、先ほど述べた46条で撮影・アップOKという結論をひねり出せるでしょうか?

そもそもなぜ、「屋外」というフレーズが条文の中に入れられたのでしょう? 当時の文化庁は何を想定していたのでしょう? この機会にすこし考えてみてくださいね。


(余談ですが、イギリスの著作権法では、「公開の場所又は公衆に開放されている構内situated in a public place or in premises open to the public)」というフレーズになっていますよ)



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終わりに


というわけで、著作権法のややこしい仕組みを説明してきましたが、いかがでしたか?


先ほども書いたように、著作権法が生まれたのは1971年。もう生後43歳です。人間なら立派なオジサンです(男性寄りな表現がイヤな方は「中年」と呼んでください)。

肉体も、だんだんガタが来はじめています。若い頃のようにはいきません。LINEやスマホアプリを巧みにあやつる若い人の輪に入れずに、一人ボヤいてる人、あなたの周りにもいるはずです・・・。


こんな、著作権法の中年化に、どう向き合えばいいのでしょう。制度疲労を起こさないように、うまく折り合いをつける策はあるのでしょうか。私の記事では、次回以降もこの中年オジサンの動向を(あったかーい目で)見守っていきたいと思います。


今回の記事も、お役に立てましたでしょうか。

それではまた。



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この記事のライター
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ヨネツキ
六法をめくったり、契約書をいじったりする人。
法律ネタの記事など担当。
ちょうど六本木ヒルズでやっていた「ベルギービール展」の誘惑と戦いながらこの記事を書きました。



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