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リベンジポルノが「私事性的画像記録」? なぜ法律の条文はこんなに読みにくいのか

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こんにちは、ヨネツキです。

衆議院の解散で、選挙カーが走りまわってますね。
これを書いてる今も、海江○万里さんの声が聞こえてきました。

そういえば、解散前の11月19日に、リベンジポルノの規制に関する法案が可決されましたね。
正式名称は、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律案」。

うーむ。。。法律のコトバって、どうしてややこしい書き方になるのでしょう?

とくに、「私事性的画像記録」というフレーズがものすごい・・・
タモリさんが適当に訳したエセ中国語みたいです。


いつもは著作権の話題を書いてますが、今回はちょっと切り口を変えて、リベンジポルノの法律をテーマに、法律のわかりづらさについて書いてみます。


べつに「リベンジ」目的のポルノに限定されない?


さて、最初に注意点をひとつ。
先ほど、「リベンジポルノ」を規制する法案、と書きました。
じっさい、新聞などのニュースでもそう報道されています。

しかし、よくよくみると「私事性的画像記録」です。
リベンジ目的の有無にかかわらず、「プライベートで撮影したアダルトな画像」ぐらいのほうがニュアンスが近い気がします。


では具体的に、どうアダルトな画像が対象になっているのでしょうか?

山田太郎議員のサイトに、法律案がアップされていたので読んでみました。


まずはズバリど真ん中、「性交又は性交類似行為に係る人の姿態」(第2条1項1号)が対象になっていますね。これは、わざわざいうまでもないでしょう。

(* もちろん、刑罰が課されるには他にもいろいろ条件が加わりますので、気になっている方は条文をご確認ください)。


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フェチの人向けの画像はどうなるのか?


ここでふと思ってしまうのですが、ものすごいフェチの人むけ特殊な画像ってどうなるんでしょうね。

私、このあいだ、デザイナーの方々が作品を展示する「デザインフェスタvol.40」というイベントに行ったのですが、そこで「ふともも写真館」というブースを見つけて仰天しました。


ブースの中は、女性のふともものアップの写真ばかり。

なんというか・・・世の中にはいろんな方がいますよね



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(注 : 画像は本文とは関係ありません




では、こういう奇特な方、じゃなかったふとももフェチの方むけに、扇情的なアングルで太ももを撮ったような写真も、今回の「私事性的画像記録」にふくまれるのでしょうか。

法律案の中から、関連しそうな条文を探してみると、こんなのを見つけました。


第2条1項3号
 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの



ふむふむ。なるほど。
これは2014年6月に成立した、いわゆる改正児童ポルノ法の条文(2条3項3号)をベースにして、「児童」を「人」に修正したものですね。


えー、私の直感的には、ふとももは「性的な部位」ではない気がしますが、よく条文を読むと「その周辺部」と書かれてるので、モヤモヤする方もいるでしょう。


さらに、読者のなかには、「バカモン! ふとももは性的な部位に決まっとる!」とお考えのコアな方もいらっしゃるかもしれませんが・・・
えーと、ここではこれ以上の議論はやめておきましょう


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法律の条文はなぜこういう書き方なのか?


・・・何の話かよくわからなくなってきたので、戻します。

いちおう今回のテーマはふともも云々ではなく、法律の条文はなぜこんなにややこしいのか、という話でした。(あ、いま太ももフェチの方がサーッといなくなった気が。)


「条文は日本語として難しい」というツッコミは、今にはじまった話じゃなく、昔からあったようです。


たとえば今から90年前民法をつくった法学博士の1人、穂積陳重(ほづみ・のぶしげ)氏は、「難解の法文は専制の表徴である。平易な法文は民権の保障である」と力強く宣言されていました(『法律進化論』(1924)より)。
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穂積陳重氏)



また、今から55年前には、言語学大久保忠利(おおくぼ・ただとし)氏が、法令用語には5つの病があると分析されました。 つまり・・・

(1) 長文病
(2) 修飾語句長すぎ病
(3) 主述はなれ病
(4) 省略文素無意識病
(5) 条件文のやたらはさみこみ病

「法令用語を診断すれば ー 構文法から見た法律文章のわかりにくさの分析」法学セミナー35号から抜粋



なるほど明快。この指摘は今でもあてはまりそうですね。

では、なぜ法律は長文だったり、条件文がやたらに多くなってしまうのでしょう?



法律は「正確」でなければならない


1つの説明としては、法律が、国民の権利や、罪と罰を決めるものである以上、できるかぎり正確じゃなければならないからです。


たとえば、テキトーに「カップルのアダルト画像を、その人と分かる形でネットにアップしたら、懲役3年!」という条文をつくった場合は、何が「アダルト画像」なのか?という問題が出てきます。

自分としてはアダルト画像と思わずアップしたのに、警察から「いやこれはアダルトだろ」と言われて逮捕。なんとも悲惨です。


なので、法律は、できるかぎり言葉を尽くして、正確に、細かく書こうとします。


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じっさい、政府には、法律案を審査する「内閣法制局」という部署もあって、条文のドラフト案はきわめて厳しくチェックされます。

内閣法制局の長官も勤められた山本庸幸(やまもと・つねゆき)氏も、条文をつくるにあたってのポイントとして、正確さを挙げられていますね。

立案する法律の内容とその具体的な規定は、その法律の目的とするところを達成するために最も合理的かつ正確なものでなければならない。

大森政輔、鎌田薫編著『立法学講義<補遺>』323pより [山本庸幸執筆](2011、商事法務)




法律は「将来」をもカバーしなければいけない


また、重要なのは、法律は将来もカバーしなければいけないということ。

リベンジポルノでいうと、例の三鷹の事件のようなパターンだけを規制すればいいというわけではありません。被害のかたちはさまざまです。


法律案の第1条をみると、法が目指す目的として、「私生活の平穏を侵害する行為を処罰する」と書かれています。なので、この目的に沿うように、将来起こるかもしれないさまざまな被害も想定して、なるべく広くカバーできる条文にしなければアカンのです。


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今から30年前、法哲学者の長尾龍一(ながお・りゅういち)氏はつぎのように指摘されました。 

法律用語は、不特定の未来の事象に向けられている。それは、未来の不特定の人々の権利義務の範囲の画定に関わるもので、差し当って念頭におかれている具体的な事象を越えて、考えられるあらゆる場合についての適合性を考慮した上で定義され、使用されなければならない。

長尾龍一『法学ことはじめ 新版』168pより(2007、慈学社。初出1985年)



さっきのふともも画像の話ではありませんが、ひょっとしたら、2020年ころには今のわれわれの想像もできないような、何かものすごいアダルト画像が出てきて、撮影された女性(または男性)が被害に苦しむのかもしれません。
いまの法律をつくるにあたっても、そういうケースをカバーしておくる必要があるのです。


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法律の条文をかんたんにすることはできない?


というわけで・・・法律の文言をかんたんにするのは、残念ながら難しいのかもしれません。

長尾龍一氏のことばをふたたび引用すると、

法律用語を一定限度以上易しくすることは原理上不可能で、法令平易化論者を十分満足させることはできないと思う。耳慣れない言葉を使って庶民に嫌われることは、法律家の宿命なのである。(同書165p)



なんと「原理上不可能」とまで言い切られていますね。。。


しかし、そうはいっても実際の条文には、いくらなんでもやりすぎだろと思うケースもあります。
さいきん話題になったものといえば、たとえば2009年の著作権法47条の6がとっても強烈でしたね。

こんな条文です↓ 覚悟してご覧ください。


第47条の6
 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。以下この条において同じ。)を検索し、及びその結果を提供することを業として行う者(当該事業の一部を行う者を含み、送信可能化された情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、当該検索及びその結果の提供を行うために必要と認められる限度において、送信可能化された著作物(当該著作物に係る自動公衆送信について受信者を識別するための情報の入力を求めることその他の受信を制限するための手段が講じられている場合にあつては、当該自動公衆送信の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。)について、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可能化された情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物(当該著作物に係る当該二次的著作物の複製物を含む。以下この条において「検索結果提供用記録」という。)のうち当該送信元識別符号に係るものを用いて自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該検索結果提供用記録に係る著作物に係る送信可能化が著作権を侵害するものであること(国外で行われた送信可能化にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知つたときは、その後は、当該検索結果提供用記録を用いた自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行つてはならない。




なんやこれ


もはやどこから読んでいいのかもわかりませんが、、、じつはこの条文は、みなさんの身近な、GoogleやYahooといった検索エンジン事業の、データの複製にかんする条文なのです。


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ウソつけ!と思われたあなたへ。
文化庁のサイトにはこの条文の要約バージョンがあるので、みてみると・・・

第47条の6
 インターネット情報の検索サービスを業として行う者(一定の方法で情報検索サービス事業者による収集を禁止する措置がとられた情報の収集を行わないことなど、政令(施行令第7条の5)で定める基準を満たす者に限る。)は、違法に送信可能化されていた著作物であることを知ったときはそれを用いないこと等の条件の下で、サービスを提供するために必要と認められる限度で、著作物の複製・翻案・自動公衆送信を行うことができる。

文化庁ウェブサイト「著作権が自由に使える場合」より)



だったら最初からそう書いてくれ! とボヤきたくもなります。


いくら正確だからって、いくら将来を想定しているからって・・・

これからも、法改正のときはこんな条文を連発する気なのでしょうか。正気ですか



お、また選挙カーが近くを通りました。

こんどの総選挙で、「法律をすこしでも身近に、わかりやすくします!」という立候補者はいないでしょうか。1票いれてもいいですよ。




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この記事のライター
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ヨネツキ
六法をめくったり、契約書をいじったりする人。
法律ネタの記事など担当。
リベンジポルノとは縁のない生活を送っています。



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