こんにちは、ヨネツキです。
昨日のコートジボワール戦、じつに残念でした。なんでそんないい位置にいるんだジェルビーニョ・・・
・・・気を取り直して、ワールドカップといえば、みなさんのまわりで「FIFAワールドカップ応援フェア!」といったおトクな企画を目にすることはありませんか?
しかし、こういうキャンペーンの中には、法律的にみるとNGなケースもあるのです・・・
1.アンブッシュ・マーケティングって何?
先日、新聞でこんな記事を見かけました。
「大手百貨店が、ワールドカップの文字などを使ったフェアができないので、宣伝のやり方に頭を悩ませている」とのこと。
はて、なぜ便乗フェアができないのでしょう・・・?
これは、「アンブッシュ・マーケティング」の問題と言われています。
アンブッシュ(Ambush)とは、「隠れた場所で待ち伏せして攻撃する」というニュアンス。要するに、便乗商法はアカンということです。
昔からよくあるのは、ワールドカップが始まるとともに、スタジアムのまわりにあやしい露店が集まってきて、「ワールドカップサッカー」などと書かれたスポーツバッグを売るようなケースですね。
最近では、もうヒトひねりして、スポーツイベントの名前をモロに使わずに、でもイベントと関連しているように見せるキャンペーンが盛んなようです。
2.なぜアンブッシュ・マーケティングはダメなのか?
FIFAも、このような便乗商売をキビしく取り締まっています。
では、そもそもなぜ、アンブッシュ・マーケティングはダメなのでしょう?
その理由は、スポーツイベントのビジネスモデルと関係があります。
なにせ大きなイベントを開くにはお金がかかる。
主催者としても、うまくお金を集めたい。
そこで、公式スポンサーになってくれる企業に「独占権」を与えるかわりに、スポンサー料をものすごく高額にするというビジネスモデルが生まれました。
もしそんな状況で、スポンサー以外の企業もイベントに便乗してしまうと、公式スポンサーの商品は売れなくなりますし、スポンサーとしてウマみが減るので、誰もスポンサーになってくれません。
というわけで、便乗商法はキビしく絞られます。
法律的にアウトな商品が見つかったら、販売を中止させられて誓約書を書かされますし、FIFAから警告書が送られたり、警察に通報されたりするケースもあるそうです。
(このへんの実例は、黒田健二弁護士が「パテント」誌2014年4月号に書かれた論文に詳しいです)
3.どこまでやったら法律的にアウトなのか?
とはいっても、スポーツイベントは、公式スポンサー以外の企業も応援して、みんなで盛り上げてこそ成功するもの。
露骨なパクリ商法はアカンのですが、そうでないマーケティング手法もたくさんありますし、なかにはイベント本体にプラスになるものもあるでしょう。
では、法律的にみると、何がセーフで、何がアウトなのでしょうか?
いろいろな法律が絡みますので、ふつうの法律と、特別に制定された法律の、2つに分けて整理してみましょう。
まず、ふつうの法律としてあげられるのが、商標法。
さきほどの、あやしい露店で大会ロゴ入りのスポーツバッグを売っているようなケースが典型的ですね。
FIFAは「ワールドカップサッカー」というフレーズについて、スポーツバッグとしての利用を射程にいれて商標登録しています(登録番号第4408000号)。
なので、勝手にフレーズを使ってスポーツバッグを売っている露店商のおじさんには、販売中止を求めることができるのです。
ほかにも、自社が公式スポンサーと混同されるような宣伝をしたら、不正競争防止法との関係でアウトになる場合もありますし、
スポーツ選手の肖像を勝手に使ったら、選手のパブリシティ権とぶつかってアウトになる場合もありそうです。
4.規制するためにわざわざ法律が作られることも・・・
ただ、これらの法律では、明確にアウトとはいえない場合もでてきます。
たとえば、1998年のワールドカップ・フランス大会のケース。
公式スポンサーはアディダスでしたが、NIKEはパリ市内に「NIKEパーク」というサッカー関連施設をつくってそこに若者たちを動員しました。
商標などの法律問題にはタッチせずに、うまくイベントに便乗して自社をアピールした例といえるでしょう。
しかしFIFAも、便乗を黙ってみているわけではありません。
場合によっては、便乗してくる業者を防ぐために、ワールドカップの前後だけ有効な「法律」を特別につくって(!)、スタジアム周辺での広告を禁止することもあります。すさまじい・・・
実際、今回のブラジル大会でも、特別法(General Law of World Cup)がつくられて、NG事項がみっちり定められています。
たとえば、
・会場付近での、風船や水上オートバイを使ったマーケティング活動
や、
・企業のプロモーション目的での、試合のパブリックビューイング
までも禁止されています。
もはやダビド・ルイスもびっくりのディフェンスで便乗商法を封じてますね・・・
5.法のアミの目をくぐる? NIKEのCM戦略とは
ただ、法律があるなら、知恵をしぼって、法律のアミの目をくぐる人も出てくる・・・
世の中、そういうものです。
思い返せば、2012年のロンドンオリンピックでも、特別法がつくられて、広いアミがかけられていました。
これはかなりすごい規制で、スポンサー以外の企業が、「GAMES」や「2012」などのフレーズと「LONDON」などのフレーズを組み合わせることを通じて、オリンピックと自社が関連していると人々に思わせるような宣伝をするのはNGとされていました。
しかし、NIKEはアミの目をくぐりました。
スポンサーじゃなかったNIKEが当時打ち出したCMは、(イギリスのロンドンではなく)中国の「倫敦(ロンドン)広場」など、世界中のあちこちの「LONDON」という地名がついた場所で、一般人がスポーツに興じる様子を映したものでした。
つまり、GAMESや2012のフレーズは使っていませんし、イギリスのロンドンとも直接ヒモづいてませんが、誰がみてもオリンピックを連想するという戦略です。
しかも、深読みすると、「スポーツは特定のプロだけのものじゃない。一般の人のものでもあるのだ」という、公式スポンサーとはあえて一線を画すNIKEのメッセージもみえてきます。おそるべしNIKE。
結果として、このCMは法的に止められたりはしなかったようですが・・・なんというか、NIKEさん、障害があってもロナウドのドリブル並みにものすごい正面突破をしかけてきますね・・・
そういえば今回のブラジル大会でも、すでに「リスク上等!」なアニメCMを展開しているNIKEさん。
なんでネイマールが美容師役で、ルーニーが漁師役なんだとツッコミつつ、リスクをおそれない新たなマーケティング戦略が生まれるのを楽しみに待ちたいと思います。
それではまた。
「トラのもん」見たさに、さっそく虎ノ門ヒルズに行きました。
法律ネタの記事など担当。
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