こんにちは、ヨネツキです。
すっかり涼しくなって秋日和ですね。
秋日和といえば、日本を代表する映画監督、小津安二郎(おづ・やすじろう)氏の映画にも同じタイトルのものがありましたね。
先日DVDで見返しましたが、やっぱり小津はいいですねえ。あのセリフまわしと、切り返しショットが作り出す独特のグルーヴ感がたまりません。
それで思いだしたのですが、
本屋さんの脇などにある廉価DVDコーナーで、昔の名作映画が500円で売られているのをときどき目にします。
なかには、日本映画の名作中の名作として名高い、あの小津監督の『東京物語』(1953)まで500円で見かけることも。
そういえば、私がむかし買った小津監督の廉価DVDボックスなんて、1936年公開の『一人息子』から1953年の『東京物語』までの9作が入って税込1980円でした。1作あたりで計算すると、なんと220円です。スタバのコーヒーより安い。
はて、なぜこれらの作品は、安く販売できるのでしょうか?
1 仮説:映画の著作権が切れたから?
もちろん、安い理由はいろいろあって、生産・流通コストを下げるなどの企業努力が大きいはずです。
(廉価版は、デジタルリマスター版に比べると、画質が悪かったり、音声が切れてしまう場面が多くて、視聴の妨げになることもあります)
ただ、先ほど映画の公開年を書いたことからピンときた人もいると思いますが、このコラムでは著作権の話に絞りたいと思います。
つまり、昔の映画は、著作権が切れた(存続期間が満了した)から、その分だけ権利者に支払う各種ロイヤリティを節約でき、安く作れるのではないでしょうか。
はたして、この仮説は正しいのか。
『東京物語』をメインにとりあげて、著作権のしくみを分析してみましょう。
なお、最初に予告しておきますが、このコラムでは時間をいったりきたりしますし、ややこしい計算が出てきますし、そのうえ結論を断言しません。そのあたりはどうぞ覚悟の上でご覧ください。
小津は好きだけど、著作権は興味ないなあ・・・という方は、後半の映画マニアトークをどうぞお楽しみください。
2 映画の著作物の、保護期間は何年?
はじめは、第1回や第2回のコラムと同じように、いまの著作権法の条文を見てみましょう。54条です。
(映画の著作物の保護期間)
第54条
1 映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(中略)を経過するまでの間、存続する。
2 映画の著作物の著作権がその存続期間の満了により消滅したときは、当該映画の著作物の利用に関するその原著作物の著作権は、当該映画の著作物の著作権とともに消滅したものとする。
(注:製作後、長期間公表されなかった映画についても条文がありますが、今回は取り上げません)
映画の著作物の著作権は、公表(通常は一般公開のこと)から70年存続します。こまかい計算方法としては、西暦に70を加えた年の、年末まで存続しますね。
たとえば、今年(2014年)公開された話題作『渇き。』や『好きっていいなよ。』、『思い出のマーニー』などの映画の著作権は、いまの法律だと2084年末まで存続しますね。
「思い出のマーニー」オーディオブック
・・・ちょっと脇道にそれますが、じつはいまの著作権法ができた1971年当初は、映画の著作権は公表後50年でした。ただ、業界関係者からいろいろ要望があって法改正がなされ、2004年の時点でまだ著作権が消滅していないものについては、保護期間が20年延長されたのです。
しかし、『東京物語』の公開は、いまの著作権法ができるよりさらに昔の1953年。
日本史的にいうと、吉田茂内閣のバカヤロー解散で有名な年ですね(ちなみに小津監督も、当時の日記でバカヤロー解散についてふれています)。
昭和の証言「吉田 茂 バカヤロー解散(第15特別国会 衆院予算委員会)」(昭和28年)
音源でもお楽しみください。
3 まずは、旧著作権法でもご覧ください
というわけで、昔の法律もみてみましょう。
なんと、1899年にできた「旧著作権法」です。
こんな昔の法律、みなさんは見る機会ないですよね。ひょっとしたら今ご覧になっているこのコラムが最初で最後かもしれません。せっかくですので、当時の仮名遣いでどうぞお楽しみください。
旧著作権法22条ノ3
活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物……ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リテハ第三条乃至第六条……ノ規定ヲ適用シ之ヲ欠クモノニ在リテハ第二三条ノ規定ヲ適用ス
でた、活動写真!
映画はむかし「活動写真」とよばれていたのです。
この条文を超訳すると、「独創性」のある映画の保護期間について知りたければ、3条か6条をみろ、ということですね。
『東京物語』に独創性があることは異論がないでしょうから、いわれるとおりに旧著作権法の3条と6条を見てみましょう。
旧著作権法3条
発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス。
旧著作権法6条
官公衙学校社寺教会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
ふむふむ、「公衙(こうが)」なんてもはや読めませんね・・・役所という意味です。
超訳すると、団体名義で公開された映画は、公開時から30年、そうでないものは著作者の死後30年間のあいだ、著作権が継続するとのこと。
(ただし、旧著作権法は1960年代に何度も改正されて、後者は死後38年まで延長されたので、ここから先は死後38年で統一しますね。ああややこしい・・・)
ここでのポイントは、映画の公開が「団体」の名義かどうかということですね。
『東京物語』は、松竹で撮られています。冒頭でもおなじみのマークがどーんと出てきます。
ところがその後、クレジットで小津監督の名も出てきますね。
こんな場合には、団体名義の著作物になるのでしょうか。それとも、小津監督が著作者なのでしょうか?
著作権の存続期間を考える場面ではありますが・・・はて、映画の著作物の著作者って、いったい誰なんでしょうね。
みなさんはいかがお考えですか?
・・・すっかり昔の法律の世界に迷いこんでしまいましたが、今日はここまで。
次回は小津監督のほか、あの世界のクロサワこと黒澤明監督や、名匠・成瀬巳喜男監督の映画もとりあげますよ。どうぞお楽しみに!
法律ネタの記事など担当。
小津作品のマイ・フェイバリットは、『秋刀魚の味』(1962)です。
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