あなたの身近な著作権(5) 名作映画でも観ながら、著作権について考えてみませんか?

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こんにちは、ヨネツキです。

いまさらですが、DVDで『アナと雪の女王』観ました。おもしろいですねぇ。いちど映画館の大画面で、まわりのお客さんが熱唱するなかで観たかったですね。

そんなわけで、お待たせしました。今日は、映画と著作権のハナシの完結編です。



8 『東京物語』に、小津監督以外の「著作者」はいるのか?


前々回前回のコラムで、旧著作権法の話とからめながら、『東京物語』の著作者は小津監督ただ1人だと、サラッと仮定しました。しかし、小津監督のほかに、『東京物語』の「著作者」なんてありえるのでしょうか。

ここから急に映画マニアトークっぽくなりますので、モードチェンジしてご覧くださいね。


ご存じでない方に説明しておきますと、『東京物語』は、映画史上の世界的名作

国内での高い評価はもちろんのこと、イギリスの老舗の映画誌『Sight & Sound』が2012年に発表した、「映画監督358人が選ぶオールタイムベスト部門」でも、あの『2001年宇宙の旅』や『市民ケーン』をおさえて堂々の第1位

辛口で知られる批評家のロジャー・エバート氏も「one of the greatest films of all time」と絶賛しています。



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そんな名作を、これから著作権の視点から分析していくわけですが・・・えーと、そもそもなんでこんな話をしているかというと・・・スタート地点は「なぜ500円という廉価でDVDを売れるの?」という話題でした。みなさん、正直もう忘れてたでしょう


ずいぶん遠いところまで来てしまいましたが、何をかくそう、それだけ著作権法がややこしいということです。私の話がムダに長いからではありません。





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映画の「著作者」って誰なの?


そもそも、映画にはいろんなスタッフの方が関わってるわけですが、映画の「著作者」って誰なんでしょう?

いまの著作権法では、16条で定められていて、

(映画の著作物の著作者)
第十六条  映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。



ふむふむ。
「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とのことです。

なかなかフワッとした言い方ですが、これは、一貫したイメージを持って映画制作の全体に参加している人、のことだといわれています。ふつうは監督ですね。


旧著作権法の頃につくられた映画についても、最高裁は同じように、「その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるか」を基準に考えましょうといいました(平成21年10月8日第一小法廷)。


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とくに小津監督の場合、一貫したヴィジョンのもと、世界的にみても特殊なテクニックを駆使して映画をつくっていたことは、今ではよく知られています。

日本の映画批評家も、次のようにまとめていますね。


技法的には、移動撮影やパン、フェードイン、フェードアウトなどを排し、低い固定画面に終始したが、その技法的単調さに見合った細部の多義的表情を大胆な省略法で描き、<間>による運動感覚の表現はメロドラマを排することになる。

 蓮實重彦 『映画狂人 小津の余白に』(河出書房新社、2001)89p



『東京物語』(1953)で告げられているのは、家族制度のゆるやかなる解体にほかならない。小津はそれを、正面の切返し、構図のなかの人物の大きさの厳密な調整、これ以上削れないほどに単純化された科白といった様式のもとに、臆することなく描いた。

 四方田犬彦 『日本映画史110年』(集英社新書、2014)158p



なので、まずは小津監督自身が、誰よりも、映画の「全体的形成に創作的に寄与」したのはおそらく間違いないでしょう。
ほんとうにあのテクニックは一度みたらクセになるんですよ。


では『東京物語』には、他に、「著作者」といえるような候補はいないのでしょうか?



脚本家の、野田高梧氏の場合


たとえば、共同脚本の野田高梧(のだ・こうご)氏はどうでしょう?

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野田氏は、サイレント映画時代から小津映画の脚本を多く手がけた人物。小津監督も、次のように述べたことがあります。


(『晩春』のシナリオについて)僕と野田さんの共同シナリオというのは、勿論セリフの一本まで二人して考えるんだ。(中略)二人の頭の中のイメージがピッタリ合 うというのかな、話が絶対にチグハグにならないんだ。セリフの言葉尻を「わ」にするか「よ」にするかまで合うんだね。

 貴田庄『小津安二郎と「東京物語」』(ちくま文庫、2013)22pから孫引き



うーむ。なんというタッグの強さ。

とはいえ、小津映画の特色はシナリオだけではなく、撮影編集によるところも大きいですね。

なので、脚本の共同執筆だけでは、「映画の全体的形成に寄与した」というのは難しそうな気がしますね。
(いまの著作権法16条でも、脚本については、映画の著作物の著作者から除かれています)。


さらにいうと、野田氏はめったに撮影現場に現れなかったそうなので(貴田庄・前掲書120p)、脚本以外にはタッチしていないものとして、著作者にはならないと考えておきましょうか。



キャメラマンの、厚田雄春氏の場合


では、キャメラマンの厚田雄春(あつた・ゆうはる)氏はどうでしょう?

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厚田氏は、長年、小津映画の撮影を担当された方。

一目みればわかりますが、小津映画は、極端なローアングルの撮影技法で知られています。撮影現場では、キャメラ用にとても低い三脚が用意されており、赤く塗られて「蟹」と呼ばれていたことは有名です。

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ただ、キャメラの位置や低さについては、小津監督が選んだことも多かったようですね。

厚田氏自身のことばを借りつつ、ご説明しましょう。
まず、ロケの場所選びについては、

(小津さんは)ロケ・ハンにじっくり時間をかけられる。(中略)気にいると、コンテを作ってもう一度行って確かめる。何度かそれをくり返して、ここにすると決めたら、必ずワン・カットの撮影にも立ち合われるんですから。
 厚田雄春/蓮實重彦『小津安二郎物語』(筑摩書房、1989)258p


そして、キャメラのレンズ選びとポジショニングについては、

小津さんがこうしたポジションで行きたいといわれたら、そうした方向に持ってくのがぼくの仕事ですから(同書228p)


さらに、照明についても、

小津さんの場合は、脚本にあらかじめコンテがカット割りまで書き込まれていますから、それを見て照明をセットしとくわけです。(同書216p)



・・・そんなわけで、厚田氏は、小津監督の頭のなかにある映像をつくりあげるために、プロとしてのテクニックを存分に発揮されていたようです。
裏をかえせば、厚田氏が、監督のヴィジョンから離れて独自に「創作性」を出されたわけではないように思えますね。


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そのあたりをさしてか、厚田氏がご自身のことを「私はキャメラ番です」と謙遜ぎみに述べていたのも有名ですね。私は番人にすぎない、キャメラを実際に操作したのは小津監督自身、というニュアンスがみてとれます。


なので、厚田氏も著作者に数えることはできない気がしました。



・・・というわけで、結論として、小津監督以外に著作者になりそうな人はいない、ということになりそうですね。

小津監督のテクニックに魅了されたいちファンとしては、この結論はそんなに違和感はないのですが・・・さらに映画ファンのあいだで議論が起こることに期待しつつ、ひとまず検討を終えましょう。


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終わりに


というわけで、いつも以上にマイナーな話ばかりしているうちに、今回も長くなってしまいました。


ラストに、すこし著作権をはなれて思い出話をすると、私が小津作品の魅力に気づいたのは、2001年頃のこと。
池袋の名画座で、たしか当時ソフト化されていなかった『小早川家の秋』(1961)を観てガツンとやられ、他の作品も追いかけた記憶があります。


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2003年か4年ころには、NHKのBS11で小津作品が全作放映され、私もVHSのビデオテープに3倍速ですべての作品を録画しましたよ。ああ懐かしい。

まさかその数年後に、きれいにデジタルリマスターされたDVDがどこのツタヤでも借りられるなんて夢にも思わず、ビデオの山をたいせつに保管してたような・・・


・・・まあそんな個人的なボヤキはさておき、映画をめぐる環境はどんどん変わってますね。もうビデオテープは誰も使ってないでしょうし、いずれDVDもなくなるかもしれません。

名画座も次々に減って、今年の6月には吉祥寺バウスシアターが閉館。7月には三軒茶屋シネマが閉館。8月末には、あの老舗の「新橋文化」「新橋ロマン」までも閉館してしまいました(私も閉館直前にかけつけました)。


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さらに、昭和の名監督たちの訃報も耳にします。今年5月には鈴木則文監督が、8月には曽根中生監督が相次いで亡くなりました。両監督のいちファンとして、ご冥福をお祈りします。


・・・しんみり寂しくなってしまいますが、60年前に撮られた『東京物語』の、笠智衆さんのセリフや、原節子さんの仕草がいまでも多くの人の心を打つように、すぐれた映画には普遍的な魅力がありますよね。

私も今回、この記事を書きながら、ひさしぶりに『東京物語』を再見しましたが、今回もしっかり泣いてしまいました



映画は10年後も、100年後も残るのでしょうか。これから映画を心から求める人に、映画はきちんと届くのでしょうか。


著作権法1条は、著作権法の目的として、「文化的所産の公正な利用に留意」することを求めています。

(目的)
第一条  この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。



少なくとも、著作権が切れた映画の「公正な利用」を考える際に、前回のコラムで書いたような著作権のややこしい仕組みが妨げになったりすることがないよう、見守っていかなければいけませんね。


というわけで、今回の記事もお役に立てましたでしょうか。

それではまた。さよなら、さよなら、さよなら。


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この記事のライター
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ヨネツキ
六法をめくったり、契約書をいじったりする人。
法律ネタの記事など担当。
『すべてがFになる』のドラマ化が楽しみです。



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