結局、著作権の保護期間は何年がいいの? ~オーディオブックで実証研究した結果~(後編)

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こんにちは、ヨネツキです。雨のせいで毎日蒸しますね・・・。

この記事は、昨日の記事(前編)の続きなので、まだの方はそちらからご覧ください。
ただし、著作権にぜんぜん興味がない人はやめておいたほうがいいかもしれません。




前編では、著作権の保護期間を延長すべき!というグループの主張を3つ取り上げましたが、この主張は正しいのでしょうか?

Buccafusco助教授とHeald教授は、今回ご紹介する論文で、オーディオブックの作品数データなどを調べて、3つの主張にどうツッコミを入れたのでしょうか?


5.著作権が切れた作品のほうが、多くオーディオブック化されている


まず、教授らは、「著作権が切れたら作品が利用されなくなるのでは?」という【主張その1】が本当かどうかを調べるため、20世紀初頭のベストセラー小説350作品(!)をリストアップして、そのうちの何作品がオーディオブック化されているかを調べました。


この作品リストをみるだけで、けっこうテンションが上がります。


たとえば、著作権が切れた作品(1913年~1922年発表)は、サマセット・モームの「人間の絆」や、ジェイムス・ジョイスの「ユリシーズ」、「ダブリン市民」など171作品。

これに対して、著作権がまだ残っている作品(1923年~1932年発表)は、ヘミングウェイの「日はまた昇る」や、スコット・フィッツジェラルドの「華麗なるギャツビー」、ダシール・ハメットの「マルタの鷹」など174作品。


うーん、豪華ですねえ。
日本でも知られた作品がたくさんあって、リストを眺めてるだけで楽しい。


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教授らは、このベストセラー小説のリストをもとにして、アメリカのオーディオブックサービスのオーディブル(Audible)や、書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル(Barnes and Noble)でデータを集めて、

・このうち何作品がオーディオブック化されたのか?
・1作品あたり、平均何バージョンのオーディオブックが作られたか?
・オーディオブックの平均価格はいくらか?

といった数値を調べました。


その結果、著作権が切れた作品でオーディオブック化されたものは33%にものぼったのに対して、著作権が残っている作品の場合は16%と低めなことが発覚。

ただし、1作品あたり作られたバージョン違いの数や、販売価格についてはほとんど同じとのことです。

この結果をもとに、教授らはまず、「著作権が切れた作品のほうがむしろ多くオーディオブック化されており、【主張その1】には数字データの根拠がない」という結論を導きました。


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6.著作権が切れた作品のオーディオブックは、濫用されてるわけじゃない


調査はまだまだ続きます。

つぎに教授らは、「著作権が切れたら作品が濫用されてしまうのでは?」という【主張その2】が本当かどうかを調べるため、ベストセラー小説350作品のうち、いまでも定評のある(durable)作品をチョイスします。

その結果、著作権が切れた20作品と、切れていない20作品の、計40作品がリストアップされました(以下では、ざっくり「名作40選」とよびましょう)。


この名作40選について、1作品あたりのバージョン違いの数を調べてみたところ、著作権が切れた作品では平均6.25バージョンと多く作られているのに対して、著作権が残っている作品では3.25バージョンと少ないことがわかりました。

さらに、それぞれの販売価格を「1分あたりいくらか」調べたところ、

・著作権が切れた作品は、CD版が0.038ドル、mp3版が0.028ドル
・著作権の残っている作品は、CD版が0.05ドル、mp3版が0.036ドル。

なるほど、著作権が切れた作品のほうがすこし安いようですね。


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ただ、このデータから、【主張その2】のように、著作権が切れた作品が濫用されているといえるのでしょうか? 教授らは次のように分析しました(意訳してます)。


「もし本当に濫用されたのなら、オーディオブックの価格も大きく下がるはずだけど、著作権が切れた作品のオーディオブックの価格もそれほど安くなっていない(still fairly high)。著作権が切れていない作品のオーディオブックと、価格はそれほど変わらないともいえるね。」


「それに、価格の違いは、むしろ権利者に支払うロイヤリティ金額が上乗せされてることとか、著作権が切れた作品どうしの価格競争として説明できるよね。だから、濫用されたとはいえないんじゃないか。」


「それに、実際問題として、たくさんのバージョン違いがあったとしても、オーディオブックはそもそも、CMや街中でよく流れるようなものじゃないよね。ユーザーがバージョン違いをすべて耳にすることは考えにくいので、ストーリーを聞き飽きられるようなこともない。だから、濫用されたとはいえないんじゃないか。」


「よって、著作権の切れたオーディオブックは濫用されてるとまではいえないので、【主張その2】にも数字データの根拠はない。」


うーん、なるほど。
「オーディオブックがCMや街中でよく流れない」という部分はなんだか悲しい気もしますが、ともかく、数字データからいろんなことが言えるものです。


7.著作権が切れたかどうかは、オーディオブックの質には関係ない


最後に、さらに面白い調査がでてきます。

教授らは、「著作権が切れると、レベルが低い形で作品が利用されるのではないか?」という【主張その3】が正しいかどうかを調べるために、なんと、オーディオブックのユーザーに、ナレーションの質をたずねました!


段取りとしては、まず名作40選の小説について、プロの業者と、プロでない読み手ら(ここではあえて「アマチュア」と訳します)に、それぞれオーディオブックを作ってもらいます。

そして、ユーザーには、プロの作品とアマチュアの作品を、ランダムに、途中の5分間だけ聴いてもらったうえで、

(1) ユーザーに、「売り物になるような朗読かどうか」を、6段階で評価(1点~6点)してもらいました。

(2) さらに、もとの小説自体の価値を評価してもらうために、「その作品を紙の本で出版するなら価格は何ドルがいいか?」と尋ねました。

すごい調査ですね・・・


結果として、まず(1)の6段階評価のほうからみると、プロの業者が作ったオーディオブックは、著作権が切れているものが4.3点、切れていないものが4.17点と、同じように高い点でした。

それに対して、アマチュアの人たちが作ったオーディオブックの評価は、著作権が切れたものも、切れていないものも、いずれも3.5点くらいと、低い結果に終わっています・・・。


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そして、(2)の、「紙の本で出すならいくら?」という質問に対しては、プロのオーディオブックを聞いた人は、著作権が切れているかいないかに関わらず、だいたい8.3ドルとの答え。

それに対して、アマチュアのオーディオブックを聞いた人の答えは7.8ドル~8.4ドル程度。やや安いようにもみえますが、大きな差ではないともいえそうです。
ユーザーのみなさんは、朗読の質と、原作品への評価をきっちり分けて判断されているということでしょうか。


教授らが出した結論も、
「利用が低レベルかどうかは、業者がプロかアマチュアかによるのであって、著作権が切れたかどうかには関係ない。よって【主張その3】も数字データの根拠はない
とのことでした。


8.まとめ ~ 実は日本にも同様の研究がある


ああ長い・・。ずいぶん長くなってしまいましたが、いかがでしたか?

前編でも書きましたが、この論文のポイントの1つは、「実証研究」をして、数字データで結論を出したところですね。



実は、日本にもすでに、同じ手法をつかった研究があるので、最後にかんたんにご紹介しておきます。

田中辰雄教授、林紘一郎教授らによる『著作権保護期間 -延長は文化を振興するか-』(勁草書房、2008)です。


発売からすでに5年以上が経っていますが、いまでも示唆に富む内容ばかりですね。

たとえば、国立国会図書館の検索システムを駆使して、作家の没後50年を経てもなお出版されるような作品は全体の1〜2%しかないと調査した、丹治吉順氏の論文や、

仮に保護期間を70年に延長しても、作家が得られる収益は1〜2%しか増えないと述べた、田中辰雄准教授の論文は、出版関係の方にもオススメですね。

そして、シャーロック・ホームズのパロディを研究した太下義之氏の論文は、法律をこえて広くミステリ好きの方にもアピールするような気が(笑)


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・・・さてさて、それにしても、今回記事を書いて思ったのは、アメリカではこんなに大規模の実証研究ができるくらい、オーディオブックが広く普及しているということ。

FeBeでも、いずれは著作権の調査に役立てるくらい、どんどんオーディオブックを配信していきたいですね。




この記事のライター
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ヨネツキ
六法をめくったり、契約書をいじったりする人。
雨がふると奥田民生さんの「野ばら」も思いだす。
法律ネタの記事など担当。



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