こんにちは、ヨネツキです。
例の集団的自衛権の話題のせいか、霞ヶ関まわりが普段よりザワザワしてますね・・
そんな中、本屋さんの新刊コーナーにて、『憲法主義』というタイトルの本を見かけました。
どうやら「憲法学者の先生と、AKBのメンバーが、対談形式で憲法の話をする」本のようです。
正直にいいましょう・・・最初は一瞬イロモノかと思いました。
しかし、読んでびっくり。おそらくこれは、今までに出た憲法の入門書のなかでもベストワンではないでしょうか。
安倍内閣がいよいよ動きはじめた今、「憲法をイチから勉強したい」という方も多いと思いますので、今日はこの本をご紹介しましょう。
1.まずは憲法クイズをどうぞ
いきなり本の中身に入るまえに、まずウォーミングアップです。
みなさんが今、憲法のことをどれくらいわかっているのか、クイズをご用意してみました。挑戦してみてください(制限時間:2分)。
Q1 「ねじれ国会」とはどういう状態ですか?
Q2 法律は、どういうプロセスを経て作られていますか?
Q3 いまの最高裁の裁判官の名前を、1人でも言えますか?
Q4 AKB48の恋愛禁止のルールは、憲法違反ですか?
(2分経過)
・・・さて、いかがでしたか?
「簡単だなあ。全問スラスラ答えたよ」というあなた、ここから先は読まなくていいです。
反対に、「そんなの、すぐに答えられないよ・・・」というあなた。 悪いことは言わないので、すぐにこの『憲法主義』(PHP研究所)を読むことをオススメします。
2.著者の南野森先生ってどんな人?
じつは、本書がイロモノじゃないということは、すぐにわかりました。
なぜなら、学者の方が南野森(みなみの・しげる)先生だからです。
南野先生は、九州大学法学部の准教授。
憲法学の原理論に関する研究を重ねられ、フランスの憲法学者、ミシェル・トロペールの議論を日本に紹介される一方で、『ブリッジブック法学入門』や、『法学の世界』といった法学入門書の編集なども担当されています。法学界の、若きリーダーのお一人です。ついでに補足すると、さわやかなヒゲのイケメンです。
とくに最近では、ご自身のツイッターや、Yahoo!ニュースの記事で、内閣法制局の憲法解釈や、集団的自衛権の問題について積極的に発言されているので、南野先生をご存じのネットユーザーも多いかと思います。
私もこれらの記事を通じて、某新聞の社説のミスリードっぷりを大いに勉強させていただきました。
3.AKB48の内山奈月さんってどんな人?
対する内山奈月さんは、1995年生まれの18歳。
AKB48のチームB所属で、今年6月のAKBの総選挙では、12,000票超を獲得して63位。
ニックネームは「なっきー」らしいので、以下ではなっきーと呼ばせていただきます。
あいにく私、AKB48の曲は1〜2曲しか知りません。総選挙も見たことないです。なので、失礼ながらなっきーのことも知りませんでした。
本書を読む前は、「おバカを売りにしてるアイドルの子が、南野先生にやさしく教えてもらう」的な、ヌルい内容の本だったらシンドイなあ・・・なんて思ったりも。
しかし、そんな勘違いはすぐに吹き飛びました。
百聞は一見にしかず。
まずはこの、南野先生となっきーの講義の動画をご覧ください(見れない方はこちらのリンクから)。
いかがですか?
なっきー、めちゃ頭いいですよね・・・。
私がさっき挙げたクイズのQ1やQ2は、余裕でスラスラ答えてます。すごい。神対応か。
受け答えが鋭すぎるせいで、南野先生も驚かれている(笑)
そして可愛い。あやうく書き忘れそうになりましたが、なっきー超かわいいです。これはヤバイ。
実は、なっきーは現在、慶應義塾大学の経済学部に在籍中とのこと。
AKBって高学歴な方もいるんですね。嵐の櫻井さんみたい。
4. 憲法の「本質」に真っ向から切り込む本
話をもどすと、本書『憲法主義』では、南野先生となっきーの会話調で、憲法の講義がすすみます。
そして驚いたことに、憲法のなかでも、かなりコアな部分ばかり攻めているのです。
なにせ冒頭のテーマからして、(1)最高法規と、(2)硬性憲法と、(3)違憲審査制です。
いきなり言われてもピンとこないかもしれませんが、これは最初に勉強するテーマとしては、かなりヘビー級の組み合わせで・・・AKBで例えるなら、あっちゃんと、優子と、ゆきりんがユニットを組むような感じでしょうか。自分でも何を言ってるのかよくわかりませんが。
・・・話をもどすと、本書のスリリングな点は、ただ単に憲法の条文を紹介するだけじゃなく、「なぜそのような条文があるのか」という趣旨を掘りさげて、噛みくだくところです。
先ほどあげた最高法規(98条1項)にしても、違憲審査制(81条)にしても、ちゃんと憲法には条文があるのですが、条文があるからといって、安心して、そこで思考を止めてはアカンのです。
たとえば南野先生は上記の(1)(2)(3)についてこう整理されます(以下、かなり乱暴なまとめです)。
憲法は、「日本という国がしっかりと機能していくための最終的な根拠を定めている」ものであり(本書24p)、最高法規だ。他の法律より一段上にある。
もし憲法が、ほかのふつうの法律と同レベルなら、かんたんに改正されてしまって「大変なことになる」。そのため、最高法規であることの裏返し=「メダルの両面」(39p)として、憲法はほかの法律よりも改正するのが難しい「硬性憲法」になっているのだ。
そして、仮に憲法に違反するような法律があったとしても、実際に憲法違反かどうかを判断できる仕組み(=裁判所)がないと意味がない。だから違憲審査制も必要なのだ(50p)、と。
このように、本書では、条文の背後にあるロジックを1つずつ引き出して、憲法の「本質」や「重要ポイント」(3p)をつぶしていきます。なので、読みすすめるうちに、
・憲法は誰のためにあるのか
・「人権」とは何なのか。人権ができるまでにどんな歴史を経たか
・今の憲法の弱いところはどこなのか
という、憲法のコアな部分について、頭がクリアに整理できます。
南野先生が仰るとおり「法学には正解のない、すっきりとしない話が多い」(143p)のですが、その正解のない中に、1つの筋道をつけられるような本だと思います。
そして、南野先生の解説に応じる、なっきーの合いの手も見事。本当に高校生ですか?
・・・そんなわけで、本書はすごい本なのですが、このまま単に、なっきーすごい、なっきー可愛いとムニャムニャ言ってるだけでは人として大切な何かを失う気がするので、以下では本書であげられた論点のうち、とくに2つを詳しくピックアップしてみましょう(私の記事は、ここで止めないからいつも長くなるんですよね・・・)。
本書のもとになった講義は、今年の2月末に行われたそうなので、あえて直近の「7月」の話題をつかって、講義内容に補助線を引いてみたいと思います。
1つは、最高裁判所の裁判官の「国民審査」の話。
もう1つは、いよいよ避けて通れなくなってきた、「集団的自衛権」の話です。
5.「国民審査」のどこが問題なのか?
みなさんは、最高裁の裁判官の「国民審査」(79条2項)でバツをつけたことがありますか?
選挙で投票所に行くと、用紙に裁判官の名前がズラっとならんでいて、「×」をつける欄がありますよね。アレです。
あの「国民審査」は、何のためにやってるのでしょう?
南野先生はこう説明されます(本書156p〜を無理やり要約)。
最高裁の裁判官は、国会議員と違って、国民が直接選挙でえらんでいるわけではない。しかし、国民には、「国民審査」という手があるので、「直接、裁判所を監視」できる(163p)。このような監視の仕組みがあることによって、裁判官にも「一応は」民主的正統性があるのだ、と。
しかし、ここで問題になるのは、はたして国民は、裁判官を「監視」できるだけの正確な情報を持ち、的確な判断ができるのか、ということです。
冒頭のクイズのQ3を思いだしてください。
おそらく、みなさんの中に、最高裁の裁判官の名前を1人でも言えた人はほとんどいないはずです。そんなもん、普通は知りませんよね。AKBの名前なら2〜3人言えたとしても。
ましてや、誰が「どんな判決を書いたか」まできっちり把握するのは、裁判官のガチヲタでもないかぎり無理です。
南野先生ですら、最高裁の裁判官はしょっちゅう代わるので、全員の名前は言えないと仰ってます(164p)
これに関連して、先日、格好の例がありました。
世間をにぎわせた、DNA鑑定と、親子関係不存在確認の訴えに関する最高裁判決(2014年7月17日第一小法廷)です。内容はニュースなどでご存知ですよね?(いちおう日本経済新聞の記事リンクを)
私のまわりでも「どないやねん」「マジすか」と言ってる人がチラホラいたこの判決。
ニュース映像で、裁判長の席にドーンと座る白木勇裁判官の顔を見て、「国民審査にむけて、この人の名前は覚えておかねば・・」と思った方もいることでしょう。
しかし、実は白木裁判官は、この判決には【反対】なのです。
判決原文(このPDFとかこのPDF)をご覧になればわかりますが、裁判官はぜんぶで5人。意見がわかれたときは多数決になりますが、勝ったのは、桜井龍子裁判官、横田尤孝裁判官、山浦善樹裁判官の3名です。
対して、多数派の意見に賛成できなかった白木勇裁判官、金築誠志裁判官は、はっきりと反対意見を書かれています。
白木氏は裁判長ですが、多数決できめる以上、裁判長であっても1人で決定は覆せません。なので、多数意見とは別に、自説(反対意見)も書かれたわけです。
新聞記事にも判決のかんたんな要約は載っていますが、みなさんはそれぞれの裁判官が何を言ったか、正しく把握し、「監視」できましたか?
そして、この判決に不満をお持ちの方は、次の選挙のとき、投票所で「誰が多数派だったか」思いだせますか?
・・・というわけで、いまの国民審査には、こんな風に「きちんと機能しているとは言いがたい」(本書165p)現状があるのです。
(ちなみにトリビアですが、過去に国民審査で最もバツをつけられたのは、1972年実施のときの下田武三裁判官で、バツの割合は約15%ですね。このときは社会党・共産党・公明党がバツをつけるよう呼びかけたのですが、それでも15%でした。)
6.集団的自衛権についての、なっきーの解釈とは?
いきなりシビアな話題を出してしまいましたが、2つ目はもっとシビア。
はい、そうです。例の「集団的自衛権」です。
まずは、いま何がおこっているのか、本書207p〜212pを参照しつつ、かんたんに説明します。
あの有名な憲法9条2項は、日本政府が「戦力」を保持しないと定めています。
政府がいうには、この「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度の実力を超えるもの」のことです。
これに対して、集団的自衛権は、「自国が攻められていなくても、他国のために反撃していい」というものですが、これだと、日本が持っていい「戦力」=「自衛のための必要最小限度のもの」を超えてしまいます。
そのため、集団的自衛権は、これまで認められないとされてきましたのです。
(より詳しく知りたい方には、たとえば若手弁護士の伊藤建氏による解説をどうぞ)
しかし、ご存じのとおり安倍内閣は、7月1日付けの閣議決定で、「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」た場合にも、実力を行使する可能性を示しました(閣議決定全文の3(3)より)
南野先生も「この本が出る頃にはもう閣議決定をしてしまっているかもしれません」と述べられていますが(219p)、まさに懸念があたった形ですね・・・。
この閣議決定のような、いわゆる解釈改憲(憲法変遷)の方法については、「国家権力をしばるはずの憲法を、国民の判断を経ずに弱めてしまう」という点で大いに問題なのですが(詳しくは本書216p)、私がここであえて注目したいのは、なっきーが編みだした解釈論です。
なっきーは南野先生との議論のなかで、9条の解釈のやり方が気になったようで、こう言います。
「アメリカと仲よくやっていかないと、日本の平和は守れないわけじゃないですか。」「だから、そういう意味で、アメリカを守ることも日本にとっては「自衛」であるとは言えないんですか?」(212p)
うーむ・・・なんと柔軟な文言解釈。なっきー、恐ろしい子!
これには南野先生も「……うーん、うなりますね。鋭い。」と言葉を失っていますが(213p)、このなっきーの解釈に対して、南野先生がどのように返答されたか。その答えは本書を手にとってお確かめください。
7.これからの憲法
・・・というわけで、つい重い話を続けてしまいました。
本当はこんな話ばかりじゃなく、本書での南野先生の説明がいかにわかりやすいか、そしてなっきーがいかに可愛いかについて書きたかったのです。すべて政権が悪い。
本書のユニークなところは他にもあって、たとえば随所になっきーの手書きの講義メモがはさまれています。中でも、204pのメモに書かれた「芦田均さん」というかわいい文字をみてると、なんだか親戚のおじさんみたいで、あの「芦田修正」も身近に感じられます。
さらに、講義を終えたなっきーが、AKBにとっての憲法である「いつでも会えるアイドル」というフレーズの「いつでも」という文言の意味を解釈している(236p)のを見ると、なっきーが法解釈の一歩をふみだしたような気がして感動的です。そうか、こうして人はファンになるのか。
★ ディレクターズ・カット版の公開は?
さて、その一方で私が気になってるのは、この講義の完全版(ディレクターズ・カット版)がどこかに眠っているはずだということです。
本書には、講義をうけた後のなっきーのレポートも掲載されているのですが、そこには、「法律学とは、より高度で機能性の高い仕組みを導入するための研究をする学問だということを知り」(55p)とか、「日本はドイツのように「憲法裁判所」を設置する必要があるのではないか」(191p)といったように、講義の本編にはのっていない内容がみられます。
きっと、元になった講義では、南野先生がこのあたりを詳しく解説されたはずですので、出版社の方には、この講義の完全版DVDもぜひぜひ発売してほしいものです。たとえ10時間でも20時間でも。
★ 南野先生の、さらにディープな論文選
どうもなっきーの話ばかりなので、本書で憲法に関心をもった方むけに、憲法の文献もいくつかご紹介しておきましょう(無知なので偏ったセレクトかもしれませんが、ご容赦ください)。
本書のベースになった話は、過去に南野先生がお書きになった『ブリッジブック法学入門[第2版] 』第1章や、『法学の世界』第1章にも掲載されています。なので、「次の1冊」としてはこのあたりがよさそうです。
さらにディープなものをお求めの方には、論文も。
たとえばネットユーザーむけには、「ただのネットの書き込みと、いわゆる憲法学の解釈とは、どう違っているのか?」という点に触れた論文(『憲法学の現代的論点[第2版] 』の第1章。このサイトでも読めます)が刺さるかもしれません。
また、クラシック音楽のファンには、憲法のテキストと解釈の関係を、ショパンとグレン・グールドの例で説明された論文(『岩波講座憲法6 憲法と時間』所収。このサイトでも読めます)などはいかがでしょうか?
いずれも、南野先生の、本書とは別のお顔がみえてくるものですね。
★ 終わりに
さて、この記事の冒頭で、本書のことを「入門書のベストワン」と高らかに書いたわけですが、これから先、みなさんが「未来は、そんな悪くないよ」と歌うためには、本書を出発点にして考えるべきことがたくさんありそうです。
先ほどあげた7月1日付けの閣議決定には、「実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには、根拠となる国内法が必要となる。政府として、…法案の作成作業を開始することとし、十分な検討を行い、準備ができ次第、国会に提出し、国会における御審議を頂くこととする。」と書かれています(閣議決定全文の4の部分。太字は筆者)。なので、これから開かれる国会が主戦場になりますね。
そのときは、みなさんが選んだ国会議員に、そしてみなさん自身の1人1人の肩に、「日本が今後はアメリカと一緒に戦争をするかもしれないという大きな選択」(本書217p)がのしかかってくるわけです。
「I want you~」と言われて、AKBのあの曲ではなく、軍人のオジサンがこちらを指さす例のポスターを思い出すような世の中がくるのでしょうか。
さっきの私のぬるいクイズとは比べ物にならないような、重いクエスチョンです。困り眉で、塩対応をしてる場合ではありません。
憲法に関心をもたれた方は、本書や、ほかの憲法の本やウェブの記事などを通じて、最低限の知識を身につけておくのがよいでしょうね。
・・・というわけで、あまりにもクドクド長すぎるこの記事もいよいよラスト。最後くらいはさわやかに締めくくりましょう。
日本国憲法の「前文」には力強い文章が多いのですが、なかでも最高に凛々しくかっこいい宣言を、あえて1文だけ引用しておきます。
「…われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」
今回の記事も、みなさんのお役に立てましたでしょうか?
それではまた。
法律ネタの記事など担当。
そういえば、まゆゆファンの検察官の方を1人知ってます。
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