こんにちは。ヨネツキです。
ニュースで知りましたが、ツイッターのタイムライン上で電子書籍が読めるようになったんですね。私もさっそく試してみましたが、動作もスムーズでいいですね。これから「本」の形がどう変わっていくのか、ワクワクします。
電子書籍のトピックといえば、4月に著作権法が改正されましたね。
来年1月から、「出版権」が電子書籍にも拡大されるようになりますが、この改正がみなさんにどう影響するか、ご存じですか?
報道では、「出版社が作家にかわって、ネットにアップロードされた海賊版マンガなどを法的に差し止められるようになった」などと言われています。
しかし、法律が変わっただけで、そんなに色々うまくいくのでしょうか?
法改正の中身をチェックしてみましたが、どうも法律だけで万事解決というわけではなく、出版社と作家さんのあいだの「契約」で、注意すべきことがいろいろ出てきたように思います。
このブログは出版業界の方や、作家の方々もご覧になってるらしいので、すこし詳しめに、今回の法改正の中身をご紹介しておきましょう。
1.出版社はなぜ、これまで海賊版アップロードを法的に止められなかったのか?
ここで、みなさんの中には、疑問に思われた方もいるかもしれません。
「あれ? これまで出版社は、ネット上の海賊版を法的に差し止められなかったの?」
これは鋭い質問です。
答えは、
☆ 出版社は、作家がつくった作品(著作物)の『公衆送信権』をもっていない場合が多かったので、自ら差止めができませんでした。
☆ 差止めができるのは、『公衆送信権』をもっている人(たとえば作家本人)だけでした。
となります。
とつぜん専門用語を使ってしまいましたので、かみ砕いて説明しましょう。
★ 公衆送信権とは?
この「公衆送信権」とは、著作権の1つです。
ざっくりいうと、「オレが生み出した作品は、オレだけがインターネットに配信できる!」という権利です。
裏をかえせば、「オレ以外の奴がインターネットにアップしたときは、オレだけがそいつの配信を止めることができる!」という権利でもあります。
なんだかこう書くと、ものすごく自己中っぽいですが、著作権とはそういうものです。
そして、公衆送信権は、作家が作品をつくったときに生まれるもの。
そのまま自分で持ち続けることもできます。
その場合、違法アップロードを(法的に)止められるのは作家の方だけで、権利を自ら持っていない出版社サイドは法的に動けない、ということになりますね。
★ 出版権とは?
他方で、著作権法のなかには「出版権」という権利もあります。
しかし、これはふつうの著作権とは別モノだと思っていいです。
出版権は、作家が作品をつくっただけで自然にうまれるものではありません。
作家が出版社と『契約』して、紙の本を出版する独占権だけを特別にあたえることによって、はじめて出版権がうまれます。
(法律にそって正確にいうと、「契約」じゃなくて「設定」だろ、とか細かい話はいろいろありますが・・・そのへんはバッサリ切り捨てて進めます)。
悩ましいことに、作家が出版社に紙の本の「出版権」だけをあたえた場合、出版社はその範囲でしか権利を持っていないわけです。
そして、「出版権」は、さきほどの「公衆送信権」に代わるようなネット配信用の権利ではありません。なので出版社としては、単にこの出版権をもっているだけでは、ネットの海賊版を(法的に)止めることはできませんでした。
★ ちなみに、出版権には契約が必要
ついでにいうと、作家が出版社に出版権をあたえるためには『契約』が必要。作家が出版社と「契約」して、権利を設定してあげるという建てつけです。
ところが、これまで出版業界では、紙の契約書を交わす例は多くなかったそうです。出版社には零細なところが多いせいか、新刊書籍で出版権の契約をむすんだ例はせいぜい5~6割、雑誌連載ではほとんどないといわれてますね。【注1】
もちろん、紙がなくても、口頭でも契約はできるのですが・・・それだと「言った・言わない」でバトルになりがちなことは、みなさんよくご承知ですよね(くわしく知りたい方は、たとえば、「太陽風交点事件」で検索してみてください)。
【注1】 村瀬拓男弁護士による「ジュリスト」2014年2月号論文を参照
2.今回の法改正で、何が変わったのか?
そんなわけで、これまで出版社は違法にアップされた海賊版を法的に止められませんでしたが、今回、平成26年(2014年)の著作権法改正では、どう変わったのでしょうか?
法改正の中身をざっくりいうと、作家が「出版権」であたえることができる権利のなかに、「公衆送信権」もふくまれるようになりました(2015年1月1日以降にむすんだ契約に、これが当てはまります)。
つまり、作家は出版社に対して、「紙の本を出版する権利」だけでなく、「電子書籍をネット配信する権利」も特別にあたえることができます。
(この記事では便宜上、「出版社」と書いてますが、配信だけを行う事業者さんにも出版権をあたえることができます。)
というわけで、出版社は、あたえられた「公衆送信権」をもとにして、違法にアップされた海賊版を「法的に」差し止めることができるようになったのです。
3.法改正の後で、作家や出版社が注意すべき点は?
ただ、法改正のあとでも、変わっていない点もたくさんあります。
いちばん大きな点は、出版権をあたえるために、あいかわらず、作家さんと出版社との「契約」が必要だということ。
つまり、出版権をつかおうと思う人は、これからも「契約」に気をつけなければいけません。
どこに気をつけるべきかは、すでに専門家の方々が議論されていますし、これから秋にむけてさらに議論が深まることでしょう。
以下ではとりいそぎ、現時点で私が気になった点を挙げておきますね。
【その1】 法律そのままでうまくいかない点は、法律とは別に契約で決めなければいけない
たとえば、あたらしい著作権法によると、作家から電子書籍の出版権をあたえられた出版社は、「原稿を受け取った日から、6か月以内に電子書籍で出版する」という義務にしばられてしまいます(81条2号イ)。
「出版する独占権をもらった以上、いつまでも放置しちゃダメよ」という義務が、デフォルトでかかってくるのです。
ただ、単行本なら問題ないとしても、雑誌連載では、この手の期間のしばりはうまくいかない場合もあるでしょう。不都合がある場合は、契約書や、メールで合意する際に、このしばりを取りのぞかなければいけません。
ウワサによると、書協(日本書籍出版協会)が今年の秋頃に、「出版契約書ひな形」をアップデートされるそうなので、そこでどういう契約アレンジをして、しばりを取り除くのか要チェックですね。
【その2】 そもそも雑誌連載分って「契約」するの?
さて今回、法律まで改正して、ネットの海賊版に対抗しようとしているわけですが、データによると、海賊版の中身としては「雑誌」の違法アップロードが多いそうです。
たとえば、コミック最大手の某出版社では、違法ファイルの削除要請を、(専門業者に依頼した分もふくめ)毎月12,000件以上も行っているとのこと【注2】。
うーむ、、、1日400件ペースか。。。
そうなると、気になってくるのは、これからは雑誌連載分も、1件1件「契約」を結ぶのだろうか?という点です。
さきほど書きましたように、これまで、雑誌連載では出版権は使われていませんでした。そして、単に法律が改正されただけでは、出版業界の実情は変わらない気もします。
出版権をうまくつかって海賊版に対策するためには、出版社と作家の方々がこれまでのスタンスを変えて、「契約」を結ぶ運用にする必要がありそうです。
実際、法改正にあたって文化庁の委員会がまとめた資料のなかでも、
「今後は、出版界として、出版社と著作権者が協力して契約慣行を形成していく努力を行うとともに、実際の契約締結の過程においても、出版社が著作権者に対し、契約の範囲を説明し、契約上明示していくことが極めて重要となる」 【注3】
と書かれていますね。法律をつくった人たちも、出版業界で契約の習慣がきちんと広まることを期待してるみたいです。
【注2】 文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の報告書の9ページより
【注3】 同報告書の23ページより
【その3】 サーバが海外にある場合、どうする?
これは出版に関わらず、音楽などもふくめた違法アップロード全般にいえることですが、海外のサーバにアップロードされた場合にどう対処するかという問題は残りますね。
サイトに削除窓口があればいいのですが、そうでないサイトも多いでしょう。
ほかにも、海外で一般の人が無断で自分のサイトにアップして、削除依頼に応じないような場合もありそうです。
この手の場合に、出版社サイドが「出版権」を武器に、どこまで本格的な訴訟アクションを起こすのかは気になりますね。
【その4】 もし作家さんが海賊版に寛容だったら?
さて、次は妄想めいた話になりますが、私がひそかに気になっているのはこれです。
ひとくちに「海賊版アップロードのマンガ」といっても実態はいろいろです。
低画質でスキャンしただけのものもあれば、わざわざボランティアで自ら翻訳までして、他国の人に紹介しているものもあります(「スキャンレーション」とよばれています)。
ひょっとするとですが・・・あまり売れていない作家さんのなかには、「ふつうに出版していたら絶対に伝わらないような国に、わざわざ広めてくれている人」を、ある意味でいちばん熱心なファンと考える方もいるかもしれません。
そんな作家さんが、いちどは出版社に違法アップを止める「出版権」をあたえてはみたものの、あとで海賊版を許す気分になった場合、出版社サイドとしてはどう動くのが「正解」なのでしょうか。。。
ただの杞憂かもしれませんが・・・そもそも出版権は、作家さんと出版社の「信頼関係」がベースだと言われてます。なので、海賊版の扱いをめぐって、逆に作家と出版社の信頼関係がギクシャクするようなことがもしあったら、じつに本末転倒だなあと思った次第で。。。
【その5】 そもそも出版権という「入れ物」に頼らなくてもいいのでは?
ラストは身もふたもない話ですが、出版権についていろいろ考えていると、そもそも「出版権」という権利にこだわらなくてもいいのでは?とも思ってしまいます。
さきほど書いたように、6か月以内の出版義務をはじめとして、「出版権」にはデフォルトでいろんなオプションがついてまわります。
こういうオプションがうっとうしいと思う方は、あえて「出版権」という入れ物をつかわずに、オーダーメイドの契約書でうまく工夫して権利処理する手もあると思うのです。
超マニアックな話になりますが、専門家のあいだでは、たとえば「公衆送信権」を期間限定で出版社に譲ったり、「公衆送信権」の一部だけを出版社に譲るというテクニックも提案されてますね。【注4】
・・・まあ、とはいえ、零細な出版社では法務リソースや、作家さんとの交渉リソースが非常に限られているといわれますし、現実には、こういうオーダーメイドな契約は難しいのかもしれませんが。。。
【注4】 池村聡弁護士による「Business Law Journal」2014年6月号の論文など参照
4.まとめ
というわけで、最後のほうは出版権と契約まわりのひどくマニアックな話になってしまいましたが、いかがでしたか?
今回の法改正を、作家の方や、出版社サイドからみると、いったいどういう「契約」を結べばよいのか。注意すべき点がたくさんあるように思いましたので、勇み足ながらまとめてみた次第です。
とりあえずは、秋頃に出るという書協のひな型が、ひとつのキーポイントになるのは間違いないので、そちらを見守りたいと思います。
→ 【2014/11/4 追記】
新たに記事をアップしました。
「もしも出版契約書の「ヒナ型」どおりに契約したら、作家と、出版社の権利はそれぞれどうなるのか?」
さて、今回は法改正の話題にしぼりましたが、実はこれに関連して堀りさげたい話は他にもいろいろあって・・・
たとえば、海賊版サイトにリンクをはる「リーチサイト」の問題とか、これから配信専門のプレーヤーがどんどん出てくる関係で出版権の登録制度に光があたるのか?とか、そもそも最近の著作権法の条文ってすごく読みにくいよねとか、あとは、私も聴きにいった、2年前の東京国際ブックフェアでの某シンポジウムの書き起こしはいま読み返してもおもしろいとか・・・その手の超通好みの話題はたくさんあるのですが、きりがないのでまたの機会に。。。
長くなってしまいましたが、お役に立ちましたでしょうか?
それではまた。
忙しい人のための「吾輩は猫である」
法律ネタの記事など担当。
漱石の作品のなかでは『三四郎』と『草枕』がフェイバリットです。
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